保存修復工房
社会科学古典資料センター内に設置されている貴重書保存修復工房は、平成5年に着手した“カール・メンガー文庫マイクロフィルム化・目録改訂・保存事業”を契機として、平成7年に開設されました。
センターが所蔵する各文庫の貴重資料は、数百年の歴史を背景に様々な材質や製本構造を持つため、各々異 なる劣化状況に合わせ1冊1冊慎重な対処が必要となります。そのため貴重書保存修復工房をセンター内に設置して保存作業を行うというシステムは、外的要因に左右されず、事業そのものを効率良く安定的に進める上で、大変有効に機能しています。また、保存修復工房は長期計画に沿った作業のみならず、資料の利用時における破損等に対して即座に処置を行う役割も併せ持っています。
このような技術・設備を内部に備えた機関は、設置当初はもちろんのこと、現在においても国立大学法人では他に例がありません。世界的に資料保存問題が深刻化しているという状況もあり、当工房は関係諸方面で高く評価され、国内のみならず海外の図書館などからも多数見学者が訪れています。また、工房における経験・技術の蓄積は、全国の大学図書館職員等を対象とした西洋古典資料保存講習会の開催に大きく寄与しており、センターが行う社会貢献のひとつとして高い評価を受けています。
保存修復工房は設立時より、公益財団法人一橋大学後援会 の財政的な支援を受けて運営されてきました。平成28年度から平成30年度までは、文部科学省共通政策課題「文化的・学術的な資料等の保存等」の支援を受け、「西洋古典資料の保存に関する拠点およびネットワーク形成事業」の拠点として活動しました。
- 一橋大学社会科学古典資料センター 保存修復工房の活動について
保存修復工房の活動、これまでの実績についてはこちら。 - 一橋大学社会科学古典資料センター貴重書保存修復工房の取り組み「本を残すために」 (スライド資料)
- 一橋大学社会科学古典資料センター貴重書保存修復工房の取り組み「本を残すために」(テキスト資料)※準備中
2018年11月16日に開催された東北地区西洋古典資料講習会で使用した資料です。
修復・保存の手順
1.状態調査
クリーニング終了後、保存カルテを1冊につき1枚作ります。まず専用の計測器で本の高さ・幅・厚みを測り、構造や素材、劣化状態などを調べ、カルテに記入します。このデータを元に、修復作業が必要か、またどのような処置をするかを判断します。一冊一冊の状態を見極め、修復・保存の基本方針を定めるための重要な作業です。
2.保存作業
低温処理
新規購入図書は、虫害予防措置として低温処理を行います。専用の大型冷凍庫にパッキングした資料を慎重に収納し、マイナス40度前後まで冷却して1週間おきます。
紙の修理
修理にはしょうふ糊 (糊粉を精製水に溶かし、煮て作成する) と、和紙を使用します。資料の紙の厚さや劣化状況に合わせて、修理に使う和紙を選びます。
保革油を塗る
表装の革が傷んでいる本には目止め用セルロース、保革油、保護のためのアクリルポリマー塗布などの保革作業をします。この作業で、革の耐性が増し、劣化の進行を抑えることができます。
保存容器を作る
保存製本
本文だけの資料や、閲覧が困難な仮綴本などは、簡単に製本します。また、ステープラー綴じの資料はステープラーを外し処置します。この保存製本は、本文と表紙を簡単に分離でき、他の保存形態へ移行することが容易な、保存に適した製本です。
3.カルテの入力
最後に保存カルテ「調査票・処方記録」をすべてパソコンに入力し、作業は終了します。このカルテは単なる本の記録としてだけでなく、劣化傾向の分析や、さらに専門的な処置や保存方法を検討する際のデータとなります。貴重書保存修復工房では、ここに紹介した作業に加え、書籍の製本・修復の専門家に指導を受けながら、さまざまな予防的保存作業と修復を行っています。
4.書庫内環境の整備
大切な資料を劣化や破損から守り、長期にわたって保存していくために書庫内環境の整備は重要な課題です。センター蔵書の貴重書は全て2・3階の閉架書庫に収蔵されているため、蔵書の目視点検も兼ね、月に一度定期的な清掃を実施しています。床の掃除機かけに加え、その時々の書庫の状態に応じて書架の拭き掃除やカビや虫害などの生物被害の点検も行います。2005年の改修工事では、外部からの影響を極力排除するよう窓を埋め、床に敷いたマットも、ほこりや虫害を防ぐため取り除きました。また、各階に設置した温湿度計を定期的に点検することにより、書庫内環境の急激な変化を防ぐよう常に気を配っています。
紫外線対策
市販の蛍光灯にUVカット用のカバーをとりつけて、蛍光灯から照射する紫外線による劣化を防ぎます。
地震対策
書架上段に落下防止バーを設置し、地震発生時の被害を最小限に食い止めます。
配架時の工夫
スチール書架の棚に厚手の中性紙マットを敷くことにより、調湿・滑り止めの効果が期待できます 。
大型本は平置きにして蔵書自体の重さによる劣化を防ぎます。2つの棚をまたいで置くので、大型本の棚専用の中性紙マットを作り、下に敷きます。