その他貴重書文庫
「一般貴重書」とは、1850年以前に刊行された図書で、本学で購入した貴重書と、佐野(貴D)、村瀬(貴E)、上田(貴F)、Lexis(貴G)、青山(貴H)、良知(貴K)、山内(Yamauchi)、鳴海(Narumi)等の文庫に所属する図書のうちから原則として1850年以前に刊行された図書を抽出したものの総称である。近年購入したコレクションとしては、例えば、「近代ヨーロッパ社会科学貴重書」(貴J、目録あり、869冊)、「法学論文コレクション」(ドイツ法学博士論文、1万7,673点・616巻)、「英国ヴィクトリア朝期パンフレット・コレクション」(1815~1850、貴A-A709~A863、1851年以降は附属図書館が保管、KAe82)、「ヘンリー・グラタン・コレクション」(貴A-B103、アイルランド史関係、目録あり、325点)、「イギリス啓蒙思想研究文献コレクション」(貴A-B353~B438、目録あり、90点)と「西洋社会経済研究文献集成」(貴A-B439~B578、フランス社会経済思想史関係、目録あり、200点)等がある。
内容は本学の長年にわたる学問研究の歴史的蓄積を反映して社会科学、人文科学の極めて広い範囲に及び、モア、エラスムス、ボダンらの16世紀の著作から19世紀に至るまでの1万冊を越える古典資料が所蔵されている。例えばその中にはホッブズの『リヴァイアサン』初版(1651年)、『百科全書』初版(1751年)、マルサスのサイン入り『人口論』初版(1798年)、同『経済学の諸定義』(1827年、筆者からセーへの献呈本でセーの書き入れがある)等が含まれている。その他ゴールドスミス=クレス文庫に所蔵されていない文献も多く、またロバート・オーウェン関係の相当数の文献があることも注目に値する。またヒューマニタリアン連盟の創始者ヘンリー・S・ソールトから平和主義者バートラム・ロイドにあてた未発表書簡(貴A-A569)や、ユゴー、バルザックら著名なフランス人作家たちの書簡(貴A-799)、1848年革命時のウィーンを記録したリトグラフ等も所蔵している。
新収図書を 一橋大学蔵書検索システムの新着図書ページで紹介しています。また、各年度に収集された図書を『古典資料センター年報』で紹介しています。
文献
- Catalogue of old and rare foreign books mainly from the general collections 貴重図書室所蔵洋書目録 Tokyo : Hitotsubashi University Library, 1976
- A list of rare books of social sciences in modern Europe 近代ヨーロッパ社会科学貴重書目録 Tokyo : Library of Hitotsubashi University, 1980.
ホッブズ『リヴァイアサン』
Leviathan
(貴:C32, 貴C:31, 貴A:B593)
出版事項
Leviathan, or, The matter, forme, & power of a common-wealth ecclesiasticall and civill / by Thomas Hobbes of Malmesbury
出版者 London : Printed for Andrew Crooke …
出版年 1651
形 態 [8], 396 [i.e. 394] p., [1] folded leaf of table ; 29 cm. (fol.)
他の書名 AT:Leviathan, or, The matter, forme, and power of a common-wealth ecclesiasticall and civil
注記事項 First ed., 1st issue
Title vignette: ornamental head with scrolls and tassels
Added t.p., engraved
Head-piece, initials
Marginal notes
Pages 247-248 repeated in numbering; p. 257-260 omitted in numbering
Errata: prelim. p. [8]
著者標目 *Hobbes, Thomas, 1588-1679
本文言語 英語
(出版事項は貴C32(真正版)のもの)
解説文
「万人の万人に対する闘争(bellum omnium contra omnes)」という有名なフレーズが見られる、イギリスの哲学者・政治思想家ホッブズ(1588-1679)の主著。そもそもリヴァイアサンとは、『旧約聖書』「ヨブ記」に現れる巨大な怪獣のことであり、ホッブズは絶対的支配権をもつ国家をそれに例え、人間は平和を作り出すために、契約を結び、絶対君主の支配する国家に自然権を譲渡すべきだという社会契約説を主張した。ホッブズは1660年代に宗教界などから激しい攻撃を受け、本書の復刻も禁止された。
1651年刊行の本書には3種類の版本が存在しており、タイトルページを詳細に見ると、いくつかの相違が確認できる。ヴィネットに「首(head)」と呼ばれる図柄が入った版は真正の初版であり、この他、一説にはオランダで出版されたとも言われている通称「熊(bear)」の偽版、「装身具(ornaments)」のヴィネットが入った偽版がある。古典資料センターではその3種類すべてを所蔵している。
ルソー『エミール』
Émile
(貴A:967, 貴C:250, Franklin:1837)
出版事項
Émile, ou, De l’éducation / par J.J. Rousseau
出版者 A La Haye : Chez Jean Néaulme
出版年 1762
形 態 4 v. ; 21 cm
著者標目 * Rousseau, Jean-Jacques, 1712-1778
本文言語 フランス語
(出版事項は貴A:967のもの)
解説文
ジャン=ジャック・ルソーの主著のひとつで、教育論。孤児エミールがルソー自身の分身である理想的な教師のもとで成長する過程を物語的な形式で描いた。ルソーの『告白』が、現実のルソーがどのように成長し、どのような生涯を送ったかの記録であるのに対して、『エミール』は「もし理想的な教育を受けることができたら、どのような生涯を送り得るか」を描いている点で「裏返しの『告白』」とも評価される。この著作でルソーは「消極教育」、すなわち教師が積極的に子供に知識を教え込むのではなく、単に子供の成長を妨げるものを取り除き、子供が自発的に物事に興味を持ち、考え、問題を解決するようにさりげなく導く教育を説いた。発売と同時に評判となり、初版が出た1762年を記載した版は8折と12折を合わせて20種類に及ぶ。古典資料センターは、そのうちの8折版2種類と12折版1種類を所蔵している。
ルソー『社会契約論』
Du contrat social
(左から貴A:3832, Franklin:1831, Franklin:1829)
出版事項
Principes du droit politique / par J.J. Rousseau, citoyen de Geneve
出版者 A Amsterdam : Chez Marc Michel Rey
出版年 1762
形 態 [2], iii-iv, [2], 321-324, vii-viii, v-vi, [2], 323, [1] p. ; 22 cm. (8vo)
他の書名 OH:Du contract social
注記事項 Half title: Du contract social
First ed. Corresponds with “Type B"(no. 133) in T.A. Dufour’s Recherches bibliographiques sur les oeuvres imprimées de J.-J. Rousseau, 1925
First ed., third state in R.A. Leigh’s Unsolved problems in the bibliography of J.-J. Rousseau, 1990
Vignette of Liberty on title page
Two preliminary gatherings misbound
Half-t.p. is bound just before the text
The two leaves of cancellanda (p.321-324 with vertical slash marks) bound among the preliminaries
The last page is publisher’s advertisements
著者標目 Rousseau, Jean-Jacques, 1712-1778
本文言語 フランス語
(出版事項は貴A3832のもの)
解説文
近代民主主義思想を代表する古典として有名なルソーの著作。「人間は自由なものとして生まれた。しかし至るところで鎖につながれている」という問題を克服するために、社会契約により人民主権に基づく国家を形成することを主張した。本書のオリジナル初版は8折版で、A型(両手に天秤と帽子の掛かった槍を持った正義の女神の立像のヴィネット)、B型(縁なし帽と王杖をもった自由の女神の座像のヴィネット)の2つのタイプが刷られた。両者はタイトルページの飾り模様のほか、タイトルの表記も異なる。さらに、A型では巻末に結婚に関する脚注の紙葉があるが、B型では脚注が削除され、代わりに広告が掲載された紙葉に差し替えられている。
古典資料センターでは、この2タイプのうちB型8折版(貴A:3832)を所蔵している。しかもこれは、Ⅵ頁とⅦ頁の間に差し替え前の巻末2葉が残された貴重な判であり、差し替え前の紙葉にはナイフで切れ込みが入れられており、差し替えるべきものであることを示している。Franklin 1831は、その後出版業者レイ(Rey)がA型の飾り模様で印刷した12折版。Franklin 1829はその海賊版であり、飾り模様と出版地の間に、「Suivant la Copie imprimée」の記載がある。
アダム・スミス『国富論』
An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations
(貴E:140)
出版事項
An inquiry into the nature and causes of the wealth of nations / by Adam Smith
出版者 London : Printed for W. Strahan, and T. Cadell, in the Strand, and W. Creech, at Edinburgh
出版年 1776
形 態 [4], 587, [1] p. ; 29 cm
注記事項 Errata on p. [4] of v. 2
著者標目 Smith, Adam, 1723-1790
本文言語 英語
解説文
本書は、アダム・スミス(Smith, Adam, 1723-1790)の主著であり、「神の見えざる手」で知られるイギリス古典派経済学の誕生を告げる第一級の古典である。第1編は、国民の富の源泉である労働の生産力を改善する分業・交換関係の考察からはじめ、投下労働量と支配労働量との組み合わせからなる労働価値論と構成価格論の展開を通して、国富の分配を規制する法則の秩序性を論証した。ケネーの『経済表』の影響がみられる第2編の資本蓄積・再生産論は、よりマクロ的なフロー分析を通して、生産的労働を支える基金の増大が経済成長を可能にする次第を解明したものであるが、第3、4編では、第2編で展開された資本投下の自然的順序を逆転させたヨーロッパの歴史と、その帰結である重商主義政策の弊害と、それが植民地問題の原因でもある次第が厳しく批判されている。第5編は、政府のなすべき事柄の特定の目的として、国防・司法とならんで、分業の引き起こす疎外を克服するための教育論や宗教論が、国家財政論の主題とされている。『国富論』初版の若干部では、スコットランドでの販売用としてタイトルページの出版事項に “and W.Creech, at Edinburgh"が追加されている。古典資料センターでは、スミスの生前に出版された初版から第五版(1789年)までのすべての版の『国富論』を所蔵しているが、センター所蔵のものはこれにあたり、きわめて貴重なものである。
マルサス『人口論』
An essay on the principle of population, as it affects the future improvement of society. With remarks on the speculation of Mr. Godwin, M. Condorcet, and other writers
(貴A:28)
出版事項
An essay on the principle of population, as it affects the future improvement of society. With remarks on the speculation of Mr. Godwin, M. Condorcet, and other writers
出版者 London : Printed for J. Johnson …
出版年 1798
形 態 [2], v, [1], ix, [1], 396 p. ; 21 cm
注記事項 Anonymous. By Thomas Robert Malthus
Errata on p. [x]
著者標目 *Malthus, T. R. (Thomas Robert), 1766-1834
本文言語 英語
解説文
本書は、『経済学原理』と並び、マルサス(Malthus, Thomas Robert, 1766-1834)の主要著作の一つである。本書は、人口が等比数列的に増加するのに対して、食料は等差数列的にしか増加しないという命題で著名であるが、初版におけるマルサスの狙いは、フランス革命のもたらす高揚した雰囲気の中で出てきたコンドルセやゴドウィンの楽観的な平等社会の構想の批判にある。ゴドウィンによれば、人間は本来理性的な存在であり、政治や社会の制度が悪いために不平等が生まれ、貧困や悪徳が発生するから、専制政治をなくし私有財産制度を廃止して、平等な社会を実現すれば貧困も悪徳もなくなり、人間も社会も完全なものになるという。マルサスはこれを人口の原理に基づいて批判した。仮にゴドウィンがいうように私有財産制を廃して平等社会が実現しても、人々は上の恐怖から解放されるので、急速な人口増加が生じ、短期間のうちに食料の増加を上回る。その結果、再び貧困や悪徳が生まれ、人々の少ない財産を守るために私有財産制が復活し、不平等も発生するであろう、というのである。本書は、マルサス本人のものと思われる献呈辞が書かれている。
ヒューム『道徳原理論』
An enquiry concerning the principles of morals
(貴A:B386,Franklin:4086)
出版事項
An enquiry concerning the principles of morals / by David Hume, Esq
出版者 London : Printed for A. Millar …
出版年 1751
形 態 [8], 253, [3] p. ; 17 cm
注記事項 Errata on p. [7] (1st group)
Advertisements on p. [1]-[3] at end
Errors in paging: p. 86 incorrectly numbered 68
著者標目 *Hume, David, 1711-1776
本文言語 英語
(出版事項は貴A:B386のもの)
解説文
デヴィッド・ヒューム(1711-1776)は、哲学、経済学、歴史学と幅広い分野で業績を残した、18世紀のスコットランド啓蒙思想を代表する人物である。スミスの親友でもあり、同時代の英仏の社会経済思想にきわめて大きな影響を与えた。人間本性を解明することにより、諸学に基礎付けを与えることにある。ヒュームの理論哲学には懐疑主義の性格が色濃いが、多面で彼は「自然」に照らして極度の懐疑主義は現実に成立しないとする自然主義を主張し、「緩和された懐疑主義」を提唱する。道徳感情としての情念にあり、「理性は情念の奴隷」であるとして倫理的反理性主義を主張する。哲学上の主著の一つであるこの書は、印刷者の記録によって、1752年になって一枚のリーフ(L3)が差し替えられたことが知られている。センター所蔵の2種のうち、貴A:B386は差し替え前の版、Franklin 4086は差し替え後の版である。
百科全書
Encyclopédie, ou Dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers
(貴C:258, 貴A:592)
出版事項
Encyclopédie, ou Dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers, par une société de gens de lettres / mis en ordre & publié par M. Diderot, … ; & quant à la partie mathématique, par M. D’Alembert, …
出版者 A Paris : Chez Briasson, David, Le Breton, Durand
出版年 1751-
形 態 v. ; 40-41 cm
注記事項 Tome 8-17 by Mr. ***
T. 8-17 publisher varies: A Neufchastel : Chez Samuel Faulche
Supplement t. 1-4, [Planche suppl.] publisher varies: A Paris : Chez Panckoucke, Stoupe, Brunet ; A Amsterdam : Chez M. M. Rey
Title vignette
Asterisk of t. 8-17 author is consist of six vertexes
T. 3-7. Encyclopédie, ou Dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers, par une societé de gens de letters
Suppl. t. 1-4. Nouveau dictionnaire, pour servir de supplément aux dictionnaires des sciences, des arts et des métiers, par une société de gens de lettres / mis en ordre et publié par M ***
[Planches 1-11]. Recueil de planches, sur les sciences, les arts liberaux, et les arts méchaniques, avec leur explication
[Planches suppl.]. Suite du recueil de planches, sur les sciences, les arts libéraux, et les arts méchaniques, avec leur explication
Library’s copy imperfect: Table wanting
著者標目 Diderot, Denis, 1713-1784
Alembert, Jean Le Rond d’, 1717-1783
本文言語 フランス語
解説文
ディドロ、ダランベール、ルソーらを執筆者としてフランス啓蒙思想の金字塔といわれる『百科全書』。これはフランスの検閲との関係で、極めて複雑な出版事情を抱えている。第1巻は1751年にパリで出版され、その後パリとスイスのヌーシャテルで続刊の印刷が続いたが、1770年、同書を危険視したフランス政府によって印刷済み分が差し押さえられたことから、出版者のパンクックは、ジュネーブに印刷地を移し、1771年から1776年にかけて、第1巻からの再版を行った。貴C:258がパリで出版された真正版で、貴A:592はジュネーブで出版された偽版である。偽版ではタイトルページ上から6行目の「SOCIÉTÉ」や8行目の「MATHÉMATIQUE」のアクセントが欠落している。
カーライル『過去と現在』
Past and Present
(貴A: A557)
出版事項
Past and present / by Thomas Carlyle
出版者 London : Chapman and Hall
出版年 1843
形 態 vi, 399 p. ; 21 cm
注記事項 “Ernst ist das Leben.–Schiller"
Library copy bound with: Chartism / by Thomas Carlyle. (2nd. ed.) London : Chapman and Hall, 1842
本文言語 英語
解説文
“キャプテンズ・オブ・インダストリー” はイギリスの思想家にして歴史家、Thomas Carlyle(1795~1881年)が1843年に著した『Past and present』(邦題『過去と現在』)に求められる。同書の第4編 “ホロスコープ” 第4章は “キャプテンズ・オブ・インダストリー” と題され、この中でカーライルは、“キャプテンズ・オブ・ワールド” としての “リーダーズ・オブ・インダストリー” を論じている。“キャプテンズ・オブ・インダストリー” つまり、国際的に通用する産業界のリーダーたり得る人材の育成。これが教育機関として一橋大学が創設して以来、使命としてきたものである。明治8(1875)年に森有礼が私設した商法講習所の時代から本学は、単に西洋式の「商法」―「商い方」を身に付け、即戦力になる人材を供給することだけではなく、“キャプテンズ・オブ・インダストリー” にふさわしい実業人の育成を目標としてきた。産業界における高貴な騎士道精神 “ノーブル・シヴァルリー・オブ・アート” を前提とした “キャプテンズ・オブ・インダストリー” は、一橋大学の理念として建学以来、今に至るまで語り続けられている。